皆さんの中には、基礎を問う出題が増えたとしても、その基礎事項をなかなか定着させることができない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、厳しい言い方かもしれませんが、看護系の学校を目指そうと決心したときの気持ち、つまり初心に立ち戻って、国試と向き合っていただければと思います。国試の勉強を、たんなる受験勉強にせず、看護職に必要な知識を身につける機会ととらえ、知識が増えることを楽しんでいきましょう。
このような勉強は、本当の意味でのアクティブ・ラーニングであると言えます。考えさせるようになってきた出題傾向にもアクティブに取り組んでいきましょう。
患者さんに説明しているかのようにして勉強を進めましょう
国試の究極的な勉強法は、勉強している事柄について、あたかも自分が患者さんを目の前にして説明しているかのようなイメージを思い描いて、まとめておくことです。いずれ皆さんは、患者さんとたえず向き合っていくことになります。その場合の真剣さを、勉強のときから意識しておくことも必要です。説明できる能力は、改定出題基準でも、明示はされていませんが、求められていると言えます。
学んだことは、そのままでは身につきません。実習で、実際に、どうなっているかを見聞しましょう。それが実習の本来の意味です。最近の出題では、比較的新しい医療器具・治療法も取り上げられるようになっていますので、この実習の時期に、それらを現場で確認してみてください。「学んで時にこれを習う、また説(よろこ)ばしからずや」という言葉が『論語』にあります。学んだことを、折にふれて繰り返し学習することによって身につけてゆくのはなんと楽しいことではないか、ということです。学んだ知識を臨床の場で確実なものにしていきましょう。
改定出題基準による新傾向
第107回の国試から、出題基準がまた改定されています。前回の出題基準の改定から、看護師国家試験は、看護師に求められる実践能力と看護学校卒業時の到達目標等を反映した内容となるように改革され、基礎を問う出題となるように強く意識して問題が作成されるようになり、国試の出題の仕方自体がポイントをおさえるようになったといえます。今度の改定もこれを受け継ぎ、さらに、「体系的」ということを強く意識した出題になりました。改定出題基準の解説のいたるところで、「体系的に問うことができるよう、項目を整理・追加した」という表現が繰り返されています。この、「体系的」というのは、言い換えると、知識同士のリンクということです。これは、出題基準を改定する過程で、「基礎的知識を状況に適用して判断を行う能力を問う」ということが重視されるようになり、「判断プロセス」がキーワードになったということを踏まえたものです。これに伴って、各機能障害のある患者について、アセスメント/検査・処置/治療/看護の体系的な知識が問われることになりました。そして、必修問題の出題として、基本的な臨床検査値の評価が明記されています。以下では、第107回での出題を見ることで、新傾向を把握してみましょう。
第107回午前11(必修問題)
肝臓の機能で正しいのはどれか。
1.胆汁の貯蔵
2.脂肪の吸収
3.ホルモンの代謝
4.血漿蛋白質の分解
【正答】 3
改定出題基準では、体系的に問うということが強調されています。
- 1. ×
- 正しくは、胆汁の「生成」です。胆汁の「貯蔵」は胆嚢で行われます。
- 2. ×
- 脂肪は、十二指腸で膵リパーゼによって分解された上で、腸管から吸収されます。肝臓では、そうではなく、コレステロールが生成されます。コレステロールそのものは悪者ではなく、細胞膜、性ホルモン、副腎皮質ホルモンの原料となります。
- 3. ○
- 肝臓は過剰なホルモンを代謝(分解)し、また、不足しているホルモンの分泌を促し、適正なホルモン濃度が体内で維持されるよう、調節しています。ホルモンの代謝というとピンとこないかもしれません。これについては、多くの本では、エストロゲンの分解と表現されています。エストロゲンが分解されなくなると、女性では性周期の乱れなどが起こります。肝臓が機能しなくなって肝硬変になると、エストロゲンが分解されなくなり、エストロゲンが血液中に増加すると、男性では女性化乳房が現れます。
- 4. ×
- 血漿蛋白質、具体的にはアルブミンは、「生成」されます。
第107回午後87
下部尿路症状のうち蓄尿症状はどれか。2つ選べ。
1.尿失禁
2.残尿感
3.腹圧排尿
4.尿線途絶
5.尿意切迫感
【正答】 1、5
改定出題基準になって、用語の厳密性が問われるようになっています。
「蓄尿」そのものと「蓄尿症状」とは、正反対のことを指しますから、注意が必要です。
排尿に関わる症状は、排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状に分けられます。排尿症状は、尿を出すことに問題がある症状で、「尿が出にくい」、「尿の勢いが弱い」、「尿をするのに腹部に力をいれる」などです。蓄尿症状は、尿を溜めることに問題がある症状で、「尿が近い」、「夜間排尿のために起きる」、「尿がもれる」などです。また、排尿後症状とは、排尿した後の症状で、「残尿感:排尿後にまだ膀胱に尿が残った感じ」、「排尿後尿滴下:排尿後下着をつけてから、尿が少しもれてくる」といったものです。多くの方が、様々な排尿の問題を抱えていますが、通常は、これらの症状が複合してみられます。
第107回午後84
難病の患者に対する医療等に関する法律〈難病法〉において国が行うとされているのはどれか。2つ選べ。
1.申請に基づく特定医療費の支給
2.難病の治療方法に関する調査及び研究の推進
3.指定難病に係る医療を実施する医療機関の指定
4.支給認定の申請に添付する診断書を作成する医師の指定
5.難病に関する施策の総合的な推進のための基本的な方針の策定
【正答】 2、5
改定出題基準になって、最新の事項が、ますます迅速に出題されるようになっています。
この出題は、落ち着いて考えると正答に至りますが、今後の出題の仕方の参考にしてみてください。
難病法では、国(厚生労働大臣)と都道府県(都道府県知事)とで責務を分担しています。これをはっきりと区別しておく必要があります。
- 1. ×
- 都道府県が行います。
- 2. ○
- 国が行います。
- 3. ×
- 都道府県が行います。
- 4. ×
- 都道府県が行います。
- 5. ○
- 国が行います。
第107回午前4(必修問題)
介護保険法に基づき設置されるのはどれか。
1.老人福祉センター
2.精神保健福祉センター
3.地域包括支援センター
4.都道府県福祉人材センター
【正答】 3
地域包括ケアシステムは、在宅療養を支援する仕組みとして中心をなすものとなったため、今後、毎回のように出題されるはずです。
地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、3職種のチームアプローチにより、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことによって、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設です。(介護保険法第115条の46第1項)
主な業務は、介護予防支援、及び包括的支援事業(介護予防ケアマネジメント業務、総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務)で、制度横断的な連携ネットワークを構築して実施します。
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者が、重度な要介護状態となっても、可能な限り、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していくことになっています。
学習方法の工夫も大事です。基礎となる解剖生理学から病態生理学や看護技術へとリンクさせることをドリルの第2回で取り上げましたが、疾患や治療法を勉強しているときは、逆に、その根拠を解剖生理学などに求めてみましょう。もちろん難しいですから、一部で構いません。このような工夫は改定出題基準への対応ともなります。
蜂谷 正博
メビウス教育研究所 塾長
日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『必修ラ・スパ』など。元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。
メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/