国家試験合格対策ドリル(2021〜2022)Vol.4 判断プロセスに重点を置いて体系的に知識をまとめよう

国家試験合格対策ドリル 第4回

皆さんの中には、基礎を問う出題が増えたとしても、その基礎事項をなかなか定着させることができない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、厳しい言い方かもしれませんが、看護系の学校を目指そうと決心したときの気持ち、つまり初心に立ち戻って、国試と向き合っていただければと思います。国試の勉強を、たんなる受験勉強にせず、看護職に必要な知識を身につける機会ととらえ、知識が増えることを楽しんでいきましょう。

このような勉強は、本当の意味でのアクティブ・ラーニングであると言えます。考えさせるようになってきた出題傾向にもアクティブに取り組んでいきましょう。

患者さんに説明しているかのようにして勉強を進めましょう

国試の究極的な勉強法は、勉強している事柄について、あたかも自分が患者さんを目の前にして説明しているかのようなイメージを思い描いて、知識をまとめておくことです。いずれ皆さんは、患者さんとたえず向き合っていくことになります。その場合の真剣さを、勉強のときから意識しておくことも必要です。説明できる能力は、改定出題基準でも、明示はされていませんが、求められていると言えます。

学んだことは、そのままでは身につきません。「学んで時にこれを習う、また説(よろこ)ばしからずや」という言葉が『論語』にあります。学んだことを、折にふれて繰り返し学習することによって身につけてゆくのはなんと楽しいことではないか、ということです。学んだ知識を臨床の場で確実なものにしていきましょう。

改定出題基準による新傾向

第107回の国試から、出題基準がまた改定されています。その一つ前の出題基準の改定から、看護師国家試験は、看護師に求められる実践能力と看護学校卒業時の到達目標等を反映した内容となるように改革され、基礎を問う出題となるように強く意識して問題が作成されるようになりました。

今度の改定もこれを受け継ぎ、さらに、「体系的」ということを強く意識した出題になりました。改定出題基準の解説のいたるところで、「体系的に問うことができるよう、項目を整理・追加した」という表現が繰り返されています。この、「体系的」というのは、言い換えると、知識同士のリンクということです。これは、出題基準を改定する過程で、「基礎的知識を状況に適用して判断を行う能力を問う」ということが重視されるようになり、「判断プロセス」がキーワードになったということを踏まえたものです。これに伴って、各機能障害のある患者について、アセスメント/検査・処置/治療/看護の体系的な知識が問われることになりました。そして、必修問題の出題として、基本的な臨床検査値の評価が明記されています。

以下では、第110回での出題を見ることで、新傾向を把握してみましょう。第110回では、国試対策本で説明されていない基本的な項目を、あえて選んで、出題が行われた可能性があります。教科書に立ち戻って、知識を補うようにしましょう。

第110回では、類似した知識を整理し、また、用語の定義をきちんと押さえておかなければならない問題が多く出題されました。

【例題1】第110回午前52

養育医療が定められている法律はどれか。
1. 児童福祉法
2. 母子保健法
3. 発達障害者支援法
4. 児童虐待の防止等に関する法律

【正答】 2

障害者基本法を基本として、身体障害者福祉法(更生医療・・・身体障害者の職業能力を向上させ、あるいは日常生活を容易にするため身体の機能障害部位に対して行われる医療)、児童福祉法(育成医療・・・身体にかなりの障害がある児童、または疾患を放置すればかなりの障害を残すと認められる児童で手術等の治療により確実な治療効果が期待できる場合。療育医療・・・長期の入院を必要とする結核にかかっている18歳未満の児童)、母子保健法(養育医療・・・体重が2,000 g以下、または身体の発育が未熟なまま生まれた乳児が入院して養育を受ける場合。妊娠中毒症の療養の援護)、精神保健福祉法(精神通院医療)をきちんと区別して覚えておきたいところです。

障害者総合支援法により、「自立支援医療制度」として、一元化が行われ、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度には、精神通院医療(都道府県・指定都市が実施)、更生医療(市町村が実施)、育成医療(市町村が実施)がある、ということも必須の知識です。

【例題2】第110回午後63

精神障害者保健福祉手帳で正しいのはどれか。
1. 知的障害も交付対象である。
2. 取得すると住民税の控除対象となる。
3. 交付によって生活保護費の支給が開始される。
4. 疾病によって障害が永続する人が対象である。

【正答】 2

いわゆる3手帳をしっかりと覚えておかなければなりません。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳

選択肢1の「知的障害も交付対象である」というのは、療育手帳であり、知的障害児・者に対する、一貫した指導・相談等が行われ、各種の援助措置を受けやすくするためのものです。他の2手帳は法で定められていますが、療育手帳は、法で定められた制度ではなく、都道府県・政令指定都市の独自の発行です。知的障害者福祉法に療育手帳の記述はなく、1973年に旧厚生省が出した通知「療育手帳制度について」(厚生省発児第156号厚生事務次官通知)と、発児第725号「療育手帳制度の実施について」に基づいています。

なお、療育手帳は、療育医療とは関係がありませんから、気を付けましょう。

【例題3】第110回午後108(状況設定問題)

Aさんの分娩経過は以下のとおりであった。
  2時00分 陣痛周期10分
  4時00分 入院
  15時00分 分娩室入室
  15時30分 子宮口全開大
  16時00分 自然破水
  16時15分 児娩出
  16時30分 胎盤娩出

Aさんの分娩所要時間はどれか。
1. 12時間30分
2. 14時間15分
3. 14時間30分
4. 16時間30分

【正答】 3

分娩所要時間には、「胎盤娩出」の時間も含みます。

【例題4】第110回午前53

乳幼児身体発育調査による、身体発育曲線のパーセンタイル値で正しいのはどれか。
1. 3パーセンタイル未満の児は、要精密検査となる。
2. 50パーセンタイルは同年齢同性の児の平均値を示す。
3. 10パーセンタイルは同年齢同性の児の平均より10 %小さいことを示す。
4. 75パーセンタイル以上90パーセンタイル未満の児は、要経過観察となる。

【正答】 1

「パーセンタイル値」とは、全体を100として、小さい方から数えて何番目になるのかを示す数値で、50パーセンタイルが中央値です。つまり、「10パーセンタイル」は「100人のうち小さいほうから数えて10番目」ということになります。

一般に、10パーセンタイル未満や、90パーセンタイル超えは、偏りがあり、要経過観察となります。

また、一般に、3パーセンタイル未満や、97パーセンタイル超えは、何らかの問題があり、場合によっては、要精密検査となります。

乳幼児の場合は、パーセンタイル値だけでは評価が不十分なため、身長と体重のバランスを考慮した評価を行います。カウプ指数、ローレル指数、肥満度は、計算問題にも出題され、頻出ですので、押さえておきましょう。

【例題5】第110回午後26

生後から20歳になるまでの器官の発育発達を示した曲線(Scammon〈スカモン〉の発育発達曲線)を図に示す。

胸腺の成長を示すのはどれか。
1. ①
2. ②
3. ③
4. ④

【正答】 1

図において、

①:リンパ型・・・胸腺などのリンパ組織の成長を示したものです。
リンパ組織は、身体を守るための免疫系の成長と関わっています。小さい頃は、免疫力が弱いため、いろいろな疾患に罹りがちですが、年齢を重ねるごとに免疫力は高まっていき、免疫力がピークに達する時期(身体が最も強くて回復力のある時期)は思春期頃となります。このときの免疫力は、成人期よりも、はるかに高い状態です。
②:神経型・・・脳や脊髄、視覚器などの神経系や感覚器系の成長を示したものです。
神経系や感覚器系というのは、生まれてから早い段階で、大人と変わらないレベルにまで成長を遂げます。
③:一般型・・・一般型は、身長や体重、筋肉、骨格などの成長を示したものです。
ヒトの身長や体重の伸びが大きくなるのは、生まれてすぐの時期と12歳頃の思春期と呼ばれる時期です。
④:生殖型・・・男性や女性の生殖器、乳房、咽頭などの成長を示したものです。
いわゆる第2次性徴に関わっており、思春期です。

学習方法の工夫も大事です。基礎となる解剖生理学から病態生理学や看護技術へとリンクさせることをドリルの第2回で取り上げましたが、疾患や治療法を勉強しているときは、逆に、その根拠を解剖生理学などに求めてみましょう。もちろん難しいですから、一部で構いません。このような工夫は改定出題基準への対応ともなります。


蜂谷正博 メビウス教育研究所 塾長

蜂谷 正博 メビウス教育研究所 塾長、
東都大学客員教授、岐阜医療科学大学客員教授

日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『必修ラ・スパ』など。元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。

メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/

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