第111回の出題から学びたいこと
- ここ数回に引き続き、国試対策本に余り載っていない事項を特に出題しているような印象を受けます。
- ⇒ 教科書を丹念に読み、さらにテーマごとに深く理解するようにします。
- 第111回の出題における最大の特徴は、過去問と類似した問題が多数出題されたことです。
- ⇒ 実は、令和3年(2021年)3月31日に厚生労働省の医道審議会から公表された「保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会報告書(令和3年3月31日)」に、「既出問題の活用は、難易度の安定化の観点からも有用であり、引き続き活用する。看護師国家試験における(中略)必修問題においてはより積極的に既出問題を活用していく。」とあり、それが実際に行われたということになります。この文面からは、第112回以降も、既出問題が活用されることがうかがえます。受験生は、よく、過去問はもう出題されないと思い込んでいますが、過去問をベースとした学習を行う必要があります。
- 第111回でも、看護における判断を問う出題が多く見られました。
- ⇒ 現在の出題基準になる数年前から、「看護における判断プロセス」がキーワードになっていたのですが、このことに関する問題が本格的に出題されるようになったということであると考えられます。上記の医道審議会の「報告書」でも、「看護師国家試験においては、根拠に基づいたアセスメントや計画立案に基づく看護実践における思考や判断プロセスを問う問題が出題されている。(中略)引き続き、保健師助産師看護師国家試験においてこの方針で出題することが望ましい。」と記載されています。よって、今後も、この傾向は続くでしょう。
【例題1】 第111回午後91
Aさん(50歳、男性、会社員)は半年ほど前から労作時に胸痛と呼吸困難感があり、狭心症と診断され内服治療を受けている。本日明け方から胸部に圧迫感があった。出勤途中に強い胸痛を自覚し、自ら救急車を要請した。救急外来到着時のバイタルサインは、体温35.8 ℃、呼吸数 30/分、脈拍 112/分、血圧 96/52 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉93 %(酸素2 L/分)。意識は清明。12誘導心電図はV1~V4でST上昇、Ⅱ、Ⅲ、aVFでST低下がみられた。
救急外来到着時にAさんの状態をアセスメントするために優先度が高い血液検査項目はどれか。
1. トロポニンT
2. 乳酸脱水素酵素
3. 血清クレアチニン
4. アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
【正答】 1
循環器系からの臨床に関する本格的な出題は少ないのですが、めずらしく系統的な出題がなされました。このような良問を使って学習をすることが望ましいと言えます。
トロポニンTは収縮蛋白で、早期心筋傷害を示す心筋マーカーです。
他の乳酸脱水素酵素(乳酸デヒドロゲナーゼ〈LDH〉、血清クレアチニン(クレアチンキナーゼ〈CK〉、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ〈AST〉などの心筋逸脱酵素についても押さえておく必要があります。
【例題2】(例題1の続き) 第111回午後92
心臓カテーテル検査の結果、Aさんは急性心筋梗塞と診断された。心係数 2.4 L/分/m2、肺動脈楔入圧 20 mmHgでForrester〈フォレスター〉分類Ⅱ群であった。
身体所見:両側下肺野で呼吸音が減弱しており、軽度の粗い断続性副雑音が聴取される。
心エコー検査:左室駆出率〈LVEF〉58 %
胸部エックス線検査:心胸郭比〈CTR〉48 %
このときのAさんのアセスメントで適切なのはどれか。
1. 心拡大が認められる。
2. 肺うっ血が起きている。
3. 末梢循環不全が起きている。
4. 左心室の収縮力が低下している。
【正答】 2
心胸郭比の正常値は59 %以内です。
左室駆出率の正常値は55~99 %です。
フォレスター分類の図は次のようになります。
よって、肺うっ血が起きていることになります。
【例題3】(例題2の続き) 第111回午後93
その後、Aさんは経皮的冠動脈形成術〈PCI〉を受けた。帰室時のバイタルサインは、体温 36.2℃、呼吸数 20/分、脈拍 58/分、整、血圧 80/40 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95 %(酸素1 L/分)。顔面は蒼白、冷汗を認めた。意識は清明である。
このとき看護師が最初に行うことはどれか。
1. 側臥位にする。
2. 除細動器の準備を行う。
3. 穿刺部の出血の有無を確認する。
4. 鎮痛薬の処方を医師に相談する。
【正答】 3
経皮的冠動脈形成術〈PCI〉は、経皮的冠動脈インターベンションとも言われ、冠動脈内腔の狭くなった部分を、カテーテルを使って拡げます。
【例題4】 第111回午後116(一部改変)
震度5強の地震後に発生した火災の3時間後、火災現場付近から救出されたA君(6歳)と母親のBさん(32歳)の2人が搬送されてきた。A君は避難時に転倒し、左肘関節付近の腫脹と疼痛を訴えていた。バイタルサインに異常はない。Bさんは避難する際にA君が煙に巻き込まれそうになるところをかばい、髪の一部と鼻毛の一部が焦げていた。右頬部に2 cm×2 cm、右上肢に 5 cm×10 cmの紅斑と水疱を認める熱傷を負っていた。バイタルサインに異常はないが、熱傷部位の疼痛を訴えていた。
トリアージの結果、看護師の初期対応として優先されるのはどれか。
1. A君の既往歴の聴取
2. A君への鎮痛薬の準備
3. Bさんの気道確保の準備
4. Bさんの熱傷部位の冷却
【正答】 3
看護師の判断を問う問題です。
『熱傷診療ガイドライン(改訂第2版)』(2015年)を念頭におく必要があります。
状況設定の記述に「鼻毛の一部が焦げていた」とありますから、念のために、Bさんの気道確保の準備を行います。
先輩たちから情報を集めよう
春休みは、こうして、先輩たちの体験を聴き出すことができる絶好のチャンスです。先輩たちからの情報収集に励みましょう。どのように教科書に取り組んだか、どこの予備校の講座がよかったか、模擬試験をどのように活用したか、などの情報が特に大事です。うまくいった体験よりは、うまくいかなかった体験を参考にさせていただくと、失敗を回避することができます。
東都大学客員教授、岐阜医療科学大学客員教授
日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『必修ラ・スパ』など。元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。
メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/